『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? (岩波ブックレット)』

比較的最近、岩波から出版された書籍です。

このブックレットシリーズ、薄い上に読みやすく、岩波という性質上、

アカデミック性もきちんと担保されています。

 

学生時代と違って現在は何かと忙しいので、

社会問題をある程度の深さで理解するために、

私はこのシリーズを重宝しています。

 

この書籍、私の生徒がドイツ語系の学科の推薦入試の準備として読んでいて、

興味を持ったので私も読んでみました。

 

この書籍の要旨は、

「最近巷で、ナチスは良いこともした。例えば、アウトバーン建設で失業率を低下

 させた、福祉を充実させたなどの言説が広がっているか、断じてそんなことはない」

というものです。

 

筆者は、

 あくまでもナチスアーリア人優越主義の下、その理想に見合う政策をしていただ

 け。そのような政治的・社会的な文脈を見ず、部分的な箇所だけを見ると、

 真実を見誤る。

 近年、歴史修正主義と称して過去の出来事を過度に美化する動きがありますが、

 そのような動きは歴史検証や研究の手法を度外視したもので、

 アカデミックな議論にとても耐えうるものではない。

と主張しています。

 

同感です。

陰謀論に引っかからないためにも、

全体を俯瞰して物事を判断したいものです。

 

経済系の書籍に破綻論やハイパーインフレを煽るトンデモ本がありますが、

歴史系のもこのような類の頓珍漢な一般書や雑誌があるそうです。

 

最近発売された

歴史・戦史・現代史 実証主義に依拠して (角川新書)

という書籍の筆者も(ドイツ現代史の特に軍事史専門の著者)、

同じ問題意識を持っていました。

ずいぶん前に否定されている学説をもとにしたことを垂れ流している雑誌がかなりある

と。売れればいいというスタンスの編集者に対する軽蔑の念も述べられていました。

 

過度に単純化された話に組み込まれないためにも、

こういうアカデミック性が担保されている書籍は読んでいたいものです。